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暗黒の二年間 48 [音楽]

2010年の秋がやってきた。秋晴れの、穏やかな日だ。あいかわらずタツオ君は、喜びも悲しみもないフラットな意識の中で過ごしていた。その日は仕事が休みだったため、たまには散歩でもしようと、ウォークインの前に僕と歩いた道をゆっくりと歩いていたのだった。
まるであの時を再現するかのように…。



川沿いの道を歩いてゆくと、古い橋のたもとへ出る。タツオ君は橋を渡って、反対側の斜面を下りてみた。これもあの時と同じだ。緑色の急流を眺めていると、橋の上から声がした。
「タツオ君、タツオ君じゃあないか?」
橋を見上げると、犬を連れた年配の男がこちらを見下ろしている…。タツオ君にはその人物がだれかすぐに分かった。
「蓮池さん?」
その人物、分厚い眼鏡をかけ、野球帽をかぶり、一見したところこのあたりの農家のおじさんにしか見えないその人物こそ、出版美術の世界の人々がカリスマと崇める絵本作家、蓮池月夫その人だった。
「久しぶりだな。こんなところで何してる?」
「いや、散歩です。ここはクッキーの散歩コースですか」
クッキーとは連れている犬の名である。蓮池さんの絵本には、デビュー作から現在に至るまで、必ずこの犬が登場する。
「いつもじゃないがね、今日はこっちを歩いてみた」
「そのクッキーは何代目ですか?」
「4代目だ。こいつはメス」
「そうですか、本の中ではオスですよね」
「そうだ。暇なんだったらうちに来いよ、子供のころからついぞ来たことがなかっただろう」
「いいんですか?」
「いいさ。あいかわらずのんびりやってるんだ」

なぜこのような人物とタツオ君が知り合いなのだろうか?
それはタツオ君がまだ小学生だったころに遡る。

当時、若き蓮池さんは初めての絵本にして不朽の名作、「やまどり」を出版したばかりだった。そして自然を描くため、東京から田舎暮らしを求めてタツオ君の住むこの町に移住してきたばかりでもあった。そのころは犬の散歩ではなくて、ジョギングが蓮池さんの日課で、タツオ君たちの遊び場はそのコースになっていたのだ。「おい、仲間に入れてくれよ」そう言って蓮池さんはタツオ君たちの石蹴り遊びに入って来たのだった。それ以来、三角ベースやら虫とりやら、一緒に遊んでいるうちに、子供たちはすっかり蓮池さんなついてしまったのである。とりわけタツオ君の家にはたびたび寄ったので、当時健在だったタツオ君のお母さんや、妹さんなども含めた交流があった人なのだ。

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カリメロ

連休は楽しまれましたか!?更新楽しみにしていた!!
by カリメロ (2011-09-26 20:53) 

haku

タツオ君、その頃から芸術系に関係ががあったんですね!
しかし、オーティス・レディング...懐かしいです♪www
by haku (2011-09-26 20:53) 

peach

★カリメロさん、ありがとうございます。
連休中はお彼岸で親戚に行ったり、また家も仏があるので、
お客様の相手をしたりしていました。道路愛護作業などもあり、
隣組の班長をしている僕は結構忙しかったのです。
フリーの仕事も締めきり前なので少しやってました。
その間に子供とあそんだりとか…・
それなりに充実していましたけどネ。
by peach (2011-09-26 23:44) 

peach

★hakuさん、ありがとうございます。
タツオ君の過去を当たると、いろいろ出てきます。
人物像が少し見えてくると良いのですが…。
オーティス・レディングはこの曲が一番好きです。
のんびりした雰囲気が出ている曲ですよね。
by peach (2011-09-26 23:48) 

DEBDYLAN

オーティスの声ってなんか物悲しげで・・・
でも好きなんです♪

by DEBDYLAN (2011-09-26 23:59) 

peach

★DEBDYLANさん、ありがとうございます。
そう言われてみると、物悲しさがありますね。
夭折のミュージシャンということもあるし、よけいにそう感じるのかも…。

by peach (2011-09-27 11:26) 

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