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黒い天使 [詩]

少し動くと暑いくらい、よい天気となった。

タツオ君たちはお彼岸で、お墓に備える花や、来た人にお返しする品物やお菓子などを買って、暗くなってから戻ってきた。タツオ君には両親がいない。早くに二人とも病気で亡くしてしまったのだ。だからこういった行事はみなタツオ君が中心になって準備する。マコさんもタツオ君の苦労をよくわかっていて、いろいろ気を配っている。

今日はタツオ君の面白い詩があったので紹介しておこう。今日みたいなよい天気には、みなよい気分になるものだが、彼は曇り空に現れる天使に会って、うれしかった日のことを書いている。


黒い天使

私と子供たちと、そして車いすに座った老婆が
庭で天使が来るのを待っていた
肌寒く
空は灰色に濁っている

しかしそんな日でも
何かありがたい日だった
曇った世界が
やさしく私たちをつつんでいた

いよいよ天使があらわれる
と老婆があんぐりを口をあけて空を見上げた

暗い世界の中では
曇り空でさえ目を細めるほどまぶしい

するとたしかに天使が舞っていた
肉の眼には見えないが
私たちのだれもが
天使を見た

ほんの束の間の出来事

そして黒い羽根が一枚
空からふわり
ふわりと舞いながら落ちてきた

私は羽根を拾い上げ
みんなと顔をみあわせた

「だれか、黒い天使の顔をみたかい?」

そんな幸せな曇り空の日だった



黒い天使というのは、一般的ではないが、実際にいる。白だから善で、黒だから悪だとかいうことはまったくない。単に天使と言って白い服を来て、白い羽を生やした人をイメージする地球的習慣があるだけだ。天使は自由に姿を変えることができる。人間がさまざまな服を着るのと同じように、天使も好きな服を着るだけだ。タツオ君は黒の良さをよく知っているので、黒い天使がやってきたのだと思う。

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氷の朝に君は詠う [詩]

タツオ君の嫌いな寒い朝だ。
朝6時半。
「行ってくる」
まわらない口調でそう言って、車で出かけるタツオ君が、肉眼では見えなくなってからも、タツオくんの心の中は、僕の額の裏のスクリーンに映っている。今加速した、急ブレーキをかけた、仕事の心配をしている、何を描くか考えている、僕の星のことを考えている、家族のことを考えている、眠気に襲われている、など、すべてが伝わってくる。運転しながら今朝、タツオ君はこんな詩を詠んでいた。

「谷底に燃える火」

薄闇の中、ピンと凍てついた朝
僕の心臓までもが止まりそうに
わなないている
車を走らせる腕も、脚も、
青き死人のように硬直すれば

谷底で老婆が火を焚く
逞しき燃焼が
一瞬確かに、地球を炎で包んだ
幾千の時の皺が
紅にスパークする

あなたが勝者だ
その骨と、その皮の下にあるものは
岩を貫く雨水の意志

今、貫通したぞよ

達成の城に鎮座した、
誇り高き神々が笑う
暗い朝に

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砂漠の夜、冬の星、中原中也 [詩]

夜も更けた。
山間を走る電車の音が、踏切のカンカンいう音が、今夜も遠くに聞こえる。静かな、地球の夜だ。

夜といえば、タツオ君が最近、うつ病の苦しみの中で書いた詩が、ここにある。自らの命を絶ちたいと思ったことがある人なら、きっとわかる詩だろう。

「砂漠の夜」

灼熱の昼が過ぎると
極寒の夜が

すべてが乾ききった
干からびたミイラの国で
凍えて眠るのは
なんて終わりな気分だろう

そしてすべてが異なる世界が
目の前の辛辣の薔薇を引き裂いて
いよいよたちあらわれるとき
静かな春が
涼しげな夏が
眩しい秋が
やわらかな冬が
さもおかしそうに
手をつないで
やってくる
四つの歌を歌いながら
そして僕は目を閉じて
聞くだろう

ゲームセット

梟が鳴き
雨音が風にまぎれ
僕の心臓が高鳴った


タツオ君の、新しい平和な世界への、あるいは肉体のない状態への憧憬が表現されたものだ。
こんな詩もある。


「冬の星」

凍った空に、氷の粒が
熱く輝いている
あなた方は先生だ
砂漠では
何もないけれど
あなた方がいる
だから僕は
砂漠に行って
そこで死んでもいい
あなた方が見ているところなら
きっと間違いはないのだから
いつまでもあなた方は
そこにいてくれるだろうから
あなた方は
先に行った人たちで
僕はあなた方の息子です
あなた方は氷の粒だけど、
あなた方は熱源だ
あなた方とともに
これからもありたい
死してのちも
あなた方といっしょに
僕は
ありたい

これなどもっと具体的に死を語っている。しかしここでも彼は望みを捨ててはいない。星に助けをもとめている。星に我々がいることを理解している。このように求められては、地球担当の僕としては、来ないわけにはゆかなかった。
「求めよ、さらば与えられん」という言葉の意味は、このような呼応関係のことなのだ。

20世紀初頭の人だが、タツオ君のような「星の子」だった、中原中也という地球人は次のように言っている。

理由がどうであれ、人がなんと謂へ
悲しみが自分であり、自分が悲しみとなった時、
人は思ひだすだらう、その白けた面の上に
涙と微笑を浮べながら、聖人たちの古い言葉を

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